Prime Musicはこれを聴け!Amazonプライム会員なら無料で聴ける個人的名盤6選

 これまた長いタイトルを失礼いたします。おわたにです。さて皆さん、Amazonプライム、活用してますか?会費の値上げがありつつも大変有用性が高いことでおなじみのAmazonプライム、配送が無料になったり映画やドラマやM-1グランプリを観られたりといろいろなサービスが受けられることは多くの人がご存じかと思いますが、その中でも今回はAmazonが展開するサブスクリプション音楽配信サービス・Prime Musicに焦点を当ててみたいと思います。

Amazonが展開するサブスクリプション音楽配信サービス……というとUnlimited Musicの方を思い浮かべる方が多いかもしれませんし、Primeの方は単なるUnlimitedの下位互換じゃないの?と思われる方も少なくないと思います。というか間違いなくそうなのですが、とはいえ、Prime Music、決してバカになりません。勿論一つのサービスとして成り立っている以上当たり前っちゃあ当たり前なのですが、使ってみると「えっ、あれ聴けるの?!」「あのアルバムも?!」「あのアーティスト殆ど聴けるじゃん!」ということが多く、後述しますが現在ではフィジカルが入手困難になっているアルバムも存在しています。そんなデータベースに無料でアクセスできるとあらば、使わずにほっぽっておくのはやはりもったいないですよね。この記事をきっかけに今まで全く注目していなかったという方が少しでも……というのは方便!今回はPrime Musicにかこつけて単に好きなアルバムについて書きたいだけの記事ですAmazonプライムステマなどでは断じてない。何ならタイトルだって「Prime Musicにあって感動したアルバム6枚」でいいんです。よく考えたらなんでこんな仰々しいタイトルにしたんだ……?まあいいや!というわけで見ていきましょう。

 

 Flipper’s Guitar「CAMELA TALK

このアルバムが名盤であることに疑いを持つ人はおそらく少ないでしょう。1990年リリース、小沢健二小山田圭吾による、日本ポップス史にあまりにも大きな影響をもたらしたユニットの2ndアルバム、その2006年リマスタード版(エンジニアはSyrup16gコーネリアスでおなじみ高山徹さん)がPrime Musicで聴けると知った時の衝撃たるや!日本人ならマジで全員一度は「恋とマシンガン」のド頭の「ダバダバダバダバ」を聴いたことがあるんじゃないかな?(ほらあれTVとかでよく流れるじゃん!)とすら思ってしまいますね。

フリッパーズギターの音楽性はどんなものだったか、そして彼らはどんな影響を日本ポップス史にもたらしたのか。ですが、それを一言で表すキーワードが「渋谷系」です。彼らは渋谷系と呼ばれたスタイル――それは音楽のみではなく、映像やファッション、デザインなど、複数の分野を巻き込んだ"ムーヴメント"でしたが――を、同じ時代に活躍したピチカート・ファイヴなどと共に一般へ膾炙させたアーティストでした(実際には渋谷系というキーワードがあふれ始めたのは彼らの解散後の話なのですが)。音的にはギターポップやマッドチェスターといった海外インディーロックからの強い影響をもとに、元ネタがかなりわかりやすく存在する……というのもかーなーりざっくりですが(ちゃんと知ってる皆様に絶対に怒られたくない!!!)、大体そんな感じです。渋谷系に関しては各バンドによって割と音が違うので、その辺はまあ、いろいろ聴いてください。

そしてこの渋谷系というジャンルのスピリットが色濃く出ているジャンルが、アニメソングや声優さんといった二次元文脈の音楽だったりします。渋谷系は90年代以降に花開いたスタイルですが、ゼロ年代以降に登場したその名も"ネオ渋谷系"のバンドたちであるCymbals(2ndアルバム「Mr.Noone Special」もPrime Musicにあります、必聴)やRound Tableといったバンドたちで活躍していた沖井礼二(TWEEDEES、ex.Cymbals)や北川勝利(Round Table)などの音楽家たちは、花澤香菜さんや竹達彩奈さん、また坂本真綾さんなど様々な声優さんやアニメ作品に楽曲を提供なさったりしています。また、みんな大好きMONACA田中秀和先生はあまりにもそのものズバリなこんな曲を書いてらっしゃったり。

もう笑うしかない。田中秀和渋谷系好きすぎ。というわけで色んな所に影響を及ぼし続けている「CAMERA TALK」、必聴!

 

 COALTAR OF THE DEEPERS「THE BREASTROKE」

まさかこのアルバムがPrime Musicで聴けるとは思いませんでしたね。日本のシューゲイザー四天王として名高い(……のか?ちなみに残りの3組はLuminous Orangecruyff in the bedroom・HARTFIELD、ルミナスとクライフはCOTD同様に一部の作品をPrime Musicで聴くことができます。あの向井秀徳が推薦文を提供したLuminous Orange「luminousorangesuperplastic」は必聴!)彼らですが、近年ではヴォーカル/ギターのNARASAKI大先生による多方面でのご活躍(「アイカツ!」「鬼灯の冷徹」といったTVアニメやももいろクローバーZへの楽曲提供、大槻ケンヂとのバンド・特撮へのギタリストとしての参加、またV系バンドPlastic Treeでのサウンドプロデュースなどなどなど)で本バンドも知られるようになってきたのではないでしょうか。

 

で、本作「THE BREASTROKE」。このアルバムは1998年にリリースされた彼らの最初のベストアルバムであり、その後廃盤となってしまい中古盤の値段が高騰したり(このバンドでは割とよくあることですが)……といった経緯を経て2008年に再発。2019年現在では再発盤も廃盤扱いとなってしまっておりタワーレコードとかでは注文もできなくなっていますが、Amazonには発売元であるMusicmineからのデッドストック放出なのか定価で普通に新品が買えるようになっていますね。これもいつ買えなくなるかわからないので早めの入手をお勧めいたします。

本ベストアルバムには彼らの結成(91年)~1998年までの音源が収められており、94年のアルバム「THE VISITORS FROM DEEPSPACE」や98年のアルバム「Submerge(こちらもPrime Musicで聴けます。名盤!!)、またEPやコンピからなど幅広く選曲されており、再録で生まれ変わった楽曲も入っているなど非常に充実した内容になっています。彼らの「轟音ギター×超絶ドラムス×少年ボイス(実はフリッパーズギターっぽいところもある)という要素がこれでもかと詰まりまくっており、初めてCOTDの音楽に触れるリスナーを容赦なく引きずり込むこと請け合いです。フィジカル盤から一曲削った全12曲なのがちょっぴり残念ですが、そこはやはりまだ手に入りやすい盤の方を早急に手に入れて聴いていただくということで……必聴!

 

toe「the book about my idle plot on a vague anxiety」

出ました名盤!と多くの人が叫んで下さるのではないかと思います。日本のポストロック史に燦然と輝く名盤中の名盤であり、2000年の結成から現在に至るまでその歴史を更新し続けている国内最高峰のインストバンドの一つ・toeの記念すべき1stフルアルバム、それがこの「the book」であります。リリースは2005年、通称「シカ」(こう呼ぶ人見たことないんだけど……)。いやーしかしまさかこのアルバムがPrime Musicで聴けるとは思いませんでしたよ(n文字ぶり2度目)。というか、冒頭で書いた「このアーティスト殆ど聴けるじゃん!」というのが、実はtoeのことだったりします。オリジナルアルバムとEPは文字通り全曲聴くことができますからね……良い時代になったもんですよ全く。

多くのミュージシャンに影響を与えている「the book」ですが、そもそもどんなアルバムなのかというと、先ほどから何度か出てきているポストロックというジャンルを国内に根付かせたアルバムであると断言してしまっていいのではないかと思います。国内ではゼロ年代以降多くのバンドが現れ、残響レコードなどのポストロックを取り扱うレーベルも登場し始めましたが、そのきっかけとして小さくない役割を果たしたのが、toeや後述するdownyのようなバンドたちでした。といっても筆者はリアルタイムで観測していないのでアレですが……

toeはメンバー全員がそれぞれキャリアを積んできた状態で結成され、特にメロディックパンクやハードコアといったかなり激しめの音楽を共通してルーツに持っていました。しかしtoeの音源においては、一聴するとそのようなバックグラウンドはあまり表に出てきていません。彼らはハードコア的なルーツを持ちつつも、あくまでクリーントーンな二本のギターによる有機的な絡み・"間"を強く意識しつつもバンドを支えるベース・そして柏倉隆史による尋常ならざる手数で歌いまくるドラムスで、それまでとは一味違った、まさにtoeならではの音楽性を追求し始めます。この、「ロックでありながらも既存の枠に当てはまらない新しいロック」という感覚こそが、ポストロックの醍醐味でした(これもだいぶざっくりですし、彼らもGhosts And Vodkaなどから強い影響を受けていましたが)。

で、それだけ大きな影響をロックシーンに与えた彼らですから、当然ロックだけではなく多ジャンルにも影響を及ぼしています。直近で話題になったのはやはりこれでしょうかね……

MONACA広川恵一先生作編曲、Wake Up, Girls!の「言葉の結晶」。ギターの絡みもさることながら、ドラムがもう、もろに柏倉さんです……(ちなみに生演奏ではなく広川氏によるプログラミング)。広川氏は別の二次元アイドルコンテンツで残響ド直球(ていうかmudyですよね)なナンバーを書いたこともおありで、オタクスマイルを浮かべてしまうこと請け合いです。オタクはポストロックを聴け。俺もそんな沢山は聴いてないけど。というわけで必聴!!

 

downy「第三作品集『無題』」

toe「the book」が日本のポストロック史に燦然と輝く名盤中の名盤だとするならば(というかそうなのですが)、downyの3rdフルアルバム(彼らのアルバムにはタイトルが存在しないので便宜上上記のように呼称されます)は――downy自体もちろんポストロック史における重要なバンドではあるのですが――少し特異な、名盤とラベリングされるのをストレートには受け入れない、どこかストイックな印象を受けます。名盤であることに変わりはないのですが……だからこそ、ぜひtoe「the book」と並べて聴くことで、この時代のシーンに思いを馳せて頂きたい。そんな想いで選出させて頂きました。

 

downytoeと同じく2000年の結成で、やはり彼らもハードコア的なルーツがありつつもどんどんとその一筋縄ではいかない個性を開花させていったバンドでした。toeがエモーショナルかつ有機的なインストゥルメンタルだとするならば、downyは何もかもが真逆。彼らはヒップホップやエレクトロニカトリップホップなどのループを軸とした音楽の「冷たい美学」を取り込んだ、クールかつストイックなアンサンブルを構築していったのです。ヴォーカル/ギターの青木ロビン氏によるウィスパーな歌唱、惜しくも昨年永眠された青木裕氏のエフェクティブなギター、後藤まりこさんやLuminous Orangeなどでもライヴサポートを務める仲俣和宏氏の質実剛健なベース、そしてスタジオミュージシャンとしても七咲逢(CV:ゆかな)さん「恋はみずいろ」など数々の名曲でドラムスを務めている秋山タカヒコ氏の正確無比なドラミング。ライヴでは5人目のメンバーたる石榴氏のVJも入るなど、音だけではなくヴィジュアル面にも強いこだわりを発揮していました。

そんな彼らのこの3rdアルバムは2003年リリースで、ドラマーの交代により秋山タカヒコ氏が加入して初となる作品だったわけですが、構築的でありながらバンドサウンドであることを強く印象付ける1stや2ndとは対照的に、徹底して抑制されたアンサンブルが全編を通じて貫かれており、彼らのアルバムの中でも最も"静"の面が強調された作品になっています。

ヒップホップ的、ロック的アプローチをけっこうやれたと思います。エレクトロニカをナマでやるみたいな構想はずっとあって、それが秋山君の加入によって出来るようになった。それが3枚目のアルバムなんです。

 と、再発に伴うインタビューで青木ロビン氏は語っていますが、まさにこの通りでしょう。筆者はこのアルバムが再発された2014年、高校三年生でしたがマジで毎日聴いていました。再発の時点で10年経ってましたが、そんなの余裕で越えてくる、あまりにも衝撃的なアルバムでした。是非聴いて頂きたい。

ちなみに、筆者が初めて聴いたdownyの楽曲はアルバムには未収録の「山茶花」というムチャクチャイケてる曲で、この再発盤にはボーナストラックとして収録されているのですがPrimeでは聴けないみたいですね。ちょっぴり残念……ぜひ盤で買って聴いてみてください。カッコいいので。必聴!

 

⑤KID FRESINO「Salve」

Prime Musicは意外とHiphopが聴ける、言い換えるとラインナップが強かったりします。ほかのサブスクリプションサービスを利用したことがありませんので比較してどうこうということではないのですが……それはともかく、このEPを聴くことができるのはだいぶ嬉しいというか、ありがたい気持ちでいっぱいになりますね。その位良い作品です。

KID FRESINOはJJJ、Febb as Young Masonとのクルー・Fla$hBackSでバックDJとしてそのキャリアをスタートし、その後ソロでもラッパーとして活動を開始。愛知は知立出身のラッパーC.O.S.A.とのジョイントアルバム「Somewhere」(こちらもPrime Musicで聴ける名盤!)のリリース、またSTUTSやSeihoといったイケてるプロデューサーとの楽曲制作などで常にシーンをリードし続けています。そんな彼が2017年にリリースしたEPがこの「Salve」なのですが……このEP、凄いんです。何しろ4曲中3曲のトラックがバンド編成。そしてそのバンドメンバーがまた凄い。

三浦淳悟(PETROLZ)、佐藤優介(caméra-stylo)がプロデュースした3曲は、ベース三浦淳悟、ウーリッツアー佐藤優介、ドラム柿沼和成、ギター斎藤拓郎(Yasei Collective)という編成のもと、

 ヤバくないですか???????????なんだこれ。特にウーリッツァーの佐藤優介さんはスカートのライブサポートでもご活躍。この作品でもいい音鳴らしてるんですよね……今作でバンド編成での楽曲制作に手ごたえを感じたのか、その次のフルアルバム「ài qíng」(Prime Musicで聴けます。名盤)ではドラムスにあの石若駿を迎え(最高でした)、そしてライブでは松下マサナオ氏や、さらには……

toe柏倉隆史を従えてクソイケてるヴァースを蹴る始末。このドラムスの人選、オタクの悪い妄想そのもの。凄すぎるよフレシノ。

先ほどもこの後に出たフルアルバム「ài qíng」が名盤である旨は書きましたが、ではなぜ4曲のEPをわざわざ取り上げたのかというと、この柏倉先生の客演(盤では叩いていませんが、どちらにも違った良さがあるため聴き比べてみて頂きたい)という人のつながりを意識したとか単純にめっちゃ良いEPとか、そういうのもあるのですが、一応この「Salve」、数量限定版として出ており最近だんだん手に入らなくなってきています(タワレコにもちょっと前までは普通にあったのにもう店舗の在庫確認できなくなってました)。こういうのが手軽に聴けるのは本当にありがたい……というわけで必聴!

 

tofubeats「FANTASY CLUB」

ここまではかなりバンドサウンドだったり生演奏の作品を挙げてきたので、最後は打ち込み主体の名盤を取り上げたいと思います。近年最も活躍がめざましい……とはいえ既に10年以上のキャリアを誇る神戸出身のトラックメイカー/DJ・tofubeatsによるメジャー3rdフルアルバム。氏のアルバムもメジャーデビュー前の唯一のフルアルバム「LOST DECADE」以外は全作聴けるんですよね。昨年リリースの最新作「RUN」もいつの間にかPrimeで聴けるようになっていて驚きました。そちらも名盤ですので是非聴いていただきたいのですが……今回は私が一番最初にハマったこのアルバムを。

tofubeats氏に関してはこちらの弊ブログ初めての記事でも言及させて頂いてますが、氏はヒップホップや現行のベースミュージック、ハウス/テクノ、J-POPと様々な音楽性をバックボーンに持ち、特にメジャーデビュー後の2枚のアルバムではその中でもJ-POP的な要素が強い印象でした。もちろんどの要素も入ってはいますが、そんな前二作と比べると、この「FANTASY CLUB」はド直球なシカゴハウスや現行のトラップ的な意匠が前面に出ており、またユーミン作詞曲(アレンジは細野晴臣氏と松任谷正隆氏!)によるブレッド&バター「あの頃のまま」を大胆にサンプリングした名曲「BABY」、リリース前から自身のDJでプレイされアンセム化していた「WHAT YOU GOT」など、本人の歌唱による(それまでは特にシングル曲などヴォーカルをフィーチュアリングに任せることの方が多かった)楽曲が格段に増えています。そしてそれらは、今作が持つシリアスさ、何かに直面しているイメージに大きく寄与しています。その辺に関しては、こんなブログを読むよりも本人のインタビューを読んだ方が早いのですが……二つ置いておきましょう。

www.ele-king.net

cotas.jp

この2つの記事を読めばわかりますが、このシリアスさの背景には「ポスト・トゥルース」という言葉、そして最近のインターネットなどが挙げられます。そしてそのシリアスさは次作となる「RUN」でも形を変えて登場しますが、筆者はこの"直面している感じ"が出始めた「FANTASY CLUB」はtofubeats氏にとって大きなターニングポイントであったように感じられるのです。そしておそらく、実際にそうであったのでないか、とも思えます。やっぱり名盤ですね。必聴!

 

……というわけで、久しぶりの音楽紹介系記事、勢いで書き切った全6枚をお届けいたしましたがいかがでしたでしょうか!知っているアルバム知らないアルバム、はたまた全部大好き!などいろいろあるかもしれませんが(「全部大好き」の人はお酒でも飲みに行きましょう笑)、いつも聴いているアルバムでもこういうサービスで聴いてみると違った視点になったりして面白いかもしれません。Prime会員の方はぜひ活用なさってすてきな音楽ライフを!

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