Prime Musicはこれを聴け!2 ~続・Amazonプライム会員なら無料で聴ける個人的名盤6選

まさかこんなに伸びるとは思いませんでした、おわたにです。こんなことあるんですね。前回の記事の大ヒットから早1か月、まだまだPrime Musicにはイケてるアルバムがいっぱいだったので書くことにしました。前回と全く変わらないテンションのまま、前回よりもちょっとだけダンスミュージック要素を増やしてお届けいたします。

あと前回の記事の前置きで書くべきことは殆ど書いてしまったのでここでは省略します。もし読んでない人いらっしゃいましたら是非。

o-w-t-n.hatenablog.com

それでは、最後までよろしくお願いします!

 

①パソコン音楽クラブ「DREAM WALK」

第2弾の一発目は、前回の記事にお寄せいただいたコメントでも名前が挙げられていたパソコン音楽クラブからスタートしてみたいと思います。趣味バレてますね……"わかり"のある方に記事をお読みいただけるのは嬉しいことなのですが。

で、パソコン音楽クラブ(よくパ音と略されますので本稿でも以降はパ音と書いていきたいと思います)。彼らは2015年に結成された大阪出身のトラックメイカーユニットで、柴田氏(変な動きをしたりストロングゼロを飲んだり、鍵盤を弾いていたりする方)・西山氏(眼鏡をかけていてPioneer DJのエフェクターをいじったりしている方)を中心として代表のらくたむ氏・いくつかの楽曲でヴォーカルを担当するまほちゃんなどの複数のメンバーで構成されています(が、ライヴなどで表に出たり、主に楽曲制作をしているのは柴田氏と西山氏の二人)。そして、何よりその名の通り部活という名目で活動しています。公式ホームページによる紹介がこちら。

"DTMの新時代が到来する!"をテーマに
ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど
90年代の音源モジュール/デジタルシンセサイザーを用いて
気軽に楽しく音楽をつくろうという部活です。
寛容な心を持った部員募集中!! 

ローランドSCシリーズといえばレイ・ハラカミ氏の使用で有名なSC-88Pro(通称ハチプロ)などが代表的機種として挙げられそうですが、"ハチプロからこの音が?!"という驚くべきサウンドクリエイションでオーディエンスを魅了したレイ・ハラカミ氏とは対照的に、パ音の使い方には"ハチプロのままの音で行く"というところにその面白さがあります。一見ペナペナなサウンドであっても、使い方次第で今の機材にはない面白さが見いだせたり、創作の原動力になったりする――インタビューにおいて、彼らはそんな風に語っています。

natalie.mu

実際彼らの音楽は、懐かしさを感じるニューウェイビーなサウンドでありながらも確かに"今"のポップス/ダンスミュージックとして成立しており、またソングライティングやトラックメイキングのクオリティの高さ(パ音結成以前にそれぞれのメンバーにバンドの経験があったりギターの心得があったりすることも背景に挙げられますが)も相まった、決してコンセプト先行になりすぎない誠実さがオーディエンスの心を惹きつけてやみません。

作品としてはこれまでにMaltine RecordsからEP「PARK CITY」、自身のbandcampからアルバム「SHE IS A」を両方ともフリーで2017年にリリース、またその後二枚の全国流通アルバムをリリースしています(後述)。またtofubeatssora tob sakanaなどの多数のrmxに加えCMやドラマ音楽を手掛けることもあり、マルチネからのEPリリースのすぐ後となる2017年7月、ラフォーレ原宿の夏のバーゲン「ラフォーレグランバザール」のCMに大抜擢され、界隈がメチャクチャざわつくなどの実績を着々と積み上げていたのですが……そんな中、満を持して2018年6月に発表された初の全国流通盤、それがこの「DREAM WALK」でした。

このアルバムは初の全国流通版ということもあり、以前から彼らのsoundcloudセッション動画で発表されていた楽曲のリメイク(という表現が正確なのかはわかりませんが)と新曲群を織り交ぜた、まさに名刺代わりとなる全8曲が収められています。中でもアルバムのハイライトとなる「Inner Blue」はパソコン音楽クラブの持ち味とポップセンスが存分に発揮された名曲で、2018年夏のアンセムといっても何ら過言ではありませんでした。今聴いても間違いなく良い曲ですね。翌年の春M3でリリースされた同曲のVIPにあたる「Inner Blue (Pasocom 4×4 Remix)」もナイス四つ打ちで最高です。気を抜くとDJで毎回かけてしまうぐらい好き。物販でしか売ってないみたいですが……

その後、「DREAM WALK」のリリースでさらなる注目を浴びたパ音は、今年―2019年9月、全国流通CDとしては2枚目となるアルバム「Night Flow」をリリースしました。この2ndはPrimeにはないですし1stの紹介である以上詳しくは触れませんが、夜をテーマとした同作にはトラックメイカーとしてもソングライターとしても大幅に進化した彼らの現在が詰まっており、文句なしの大名盤となっています。筆者は「Night Flow」は間違いなく今年のベストアルバムだと思っており、このまま書くと分量が倍になってしまうので控えますが、WWWでのリリパも最高でしたし今度の「Night Flow Remixes」リリパ(なんと代官山UNIT)もチケット取りました。マジ今のパ音ヤバいんでCD買った方がいいですよ。というわけで今後ますます注目が集まるパソコン音楽クラブ、必聴!

(と書いていたらなんと今日の夕方にテレビ東京系列のアニメポケットモンスター」のEDテーマ「ポケモンしりとり(ピカチュウ→ミュウVer.)」をパソコン音楽クラブが書き下ろすという大事件が起きました。本当に輝かしい異常事態です。というかこの件で当記事のリリースを大幅に早める決断を筆者は下したわけですが、何にせよこれでまた一つ、これからパソコン音楽クラブが来るということが立証されてしまいました。ヤバいですね。本当におめでとうございます!!!!!12.8代官山UNITみんな行こうな!!!!!!!!!!)

 

②Sweet William「Blue」

これも名盤ですねー。名古屋出身のビートメイカー・Sweet William。2017年に沖縄出身のラッパー・唾奇とタッグを組んで制作したアルバム「Jasmine」(こちらも名盤!)が各所で話題となり、m-floなどのビッグネームのrmxを手掛けるなどその存在感を増すSWですが、そんな彼が2017年の冬にリリースした単独名義でのEPがこの「Blue」。名盤と一般的に言うのであればJasmineだろ、という向きもあるとは思うのですが、最初に氏の作品を聴いたのがこちらだったこともあったり、またダブルネームとは違ったソロならではの彼の"色"がよく出ている気がして、筆者はこのEPを推していきたいところなんですよね。あと、この作品はCDが数量限定だったのもあってもう入手困難だったりもするので、そういった意味でもここで紹介させていただく意味がある作品なのかなと思います。

Sweet William氏の音は、サンプリング(ある楽曲のフレーズをそのまま借用し、加工したりしなかったりして自分の曲にそのまま取り込むという手法)を軸としたオーセンティックなヒップホップの良さを持ちながらも、自ら組み立てる鍵盤やベースラインなどの「弾き」の部分とのバランス感覚が絶妙に共存しています。また基本的にすっきりとした音数で、一聴すると非常におしゃれで聴きやすいのですが、よく聴いてみると特徴的なベースラインであったり独特なリズムであったりという部分に作曲家としての自己が確立されているところが氏の凄さであり、「SWのビートは外さない」とヘッズからは絶大な信頼を寄せられています。

「Jasmine」のヒット以降、唾奇氏と各地のイベントやフェスに引っ張りだことなったSW氏ですが、今作「Blue」では今年待望のアルバムをリリースしたkiki vivi lily女史(この記事を書いている最中にトラックメイカーSUKISHA氏とのコラボアルバム、また同作にtofubeats氏がrmx参加することが発表されメチャクチャびっくりしてしまいました。すげー楽しみ)、またSW氏とは同じクルー「PITCH ODD MANSION」に所属するANPYO氏など、彼の作品にたびたび参加する気心の知れたゲストを迎えての制作となっています。もちろん唾奇氏も参加しており、今作での「Just thing」は、渋谷でのゲリラライブでも一曲目に披露されるなどライブでも鉄板になっている名曲なのですが……本当にどの曲も良いんですよ、「Blue」。フルレングスのアルバムではない、EPならではの密度というか……前回のKID FRESINOもそうなのですが、フルアルバムにはフルアルバムの、EPにはEPの良さがあって、特にこの作品なんかはEPならではのサイズ感がハマっていて素敵だな~と思うのです。また、CD盤には4曲のバックトラックも入っており、そちらは配信だと「Blue Instrumentals」としてまとまっているのですが、こちらもPrime Musicで聴くことができます。トラックだけで聴いてみると今まで気付かなかった音が聞こえたり、また違った風に響くように感じられるかもしれません。こういうところもヒップホップというジャンルならではの面白さなのではないでしょうか。

今回挙げた3作品のみならず、Sweet William氏の作品は殆どがPrime Musicで聴くことができ、Jinmenusagi氏とのコラボアルバム「la blanka」、また青葉市子さんと制作された楽曲「からかひ」など、どれも素晴らしい作品ばかりです。筆者は本当に本当にSweet William氏の作品と音が大好きなので、これを読んでくださる皆様がSW氏の音にハマることを願うばかりです……というわけで必聴!

 

藤井隆「light showers」

最近では「おげんさんといっしょ」への出演などで音楽ファンからの熱視線を集める藤井隆さん。同番組や紅白でも披露されたヒット曲「ナンダカンダ」など、歌手としての知名度も確かな氏ですが、今回はそんな彼が2017年9月にリリースしたアルバム「light showers」を取り上げてみたいと思います。

そもそも、2017年の氏は7月にそれまでのヒット曲を大胆に再構築したrmxアルバム「RE:WIND」をリリースし、同作にはtofubeats氏やPARKGOLF氏も参加するほか先述の「ナンダカンダ」はまさかまさかのHyperJuice(彼らについてはこちらの弊ブログ最初の記事でも言及しています)がrmx。原曲のポップさはそのままにHyperJuiceらしい完全フロア対応の超ゴキゲンなBasslineに仕上がっており、踊れるJ-POPの新しいアンセムとしてharaさんご出演のアイカツアニON(2018.3.24、新木場ageHa)をはじめとする多くの現場でプレイされました。というようにインターネット音楽のファンやDJをも射程に捉えた活動で注目されていたのですが、そんな中リリースされた今作もまた、非常にネットなどで話題を集めることとなります。そのきっかけが、アルバム発売に先駆けて公開されたこの映像でした。

藤井隆 "light showers" CFまとめ」と題された2分46秒のこの映像には、10本の懐かしい90年代CM――ではなく、90年代のCMの映像が収められています。しかもご丁寧なことに最初のCMが始まる前には何かの番組の提供クレジット、最後のCMのあとにはニュース番組の冒頭(時刻は夜の11時56分)がそれぞれ挿入されており、本当にTVを見ているような気分を想起させる工夫に満ち満ちた、リアリティーと質感にとことんこだわった映像作品になっています。こちらのインタビューではこの映像の制作に至る経緯や様々な試行錯誤を垣間見ることができるのですが、各CMのキャッチコピーや小道具など、とにかく細部まで作り込まれたプロダクションは非常に秀逸であり、そしてこの10本のCMで起用されている楽曲は、総て本作「light showers」の収録曲です。

もうお解りでしょう。藤井隆氏は、自身のニューアルバムのすべての収録曲に架空のタイアップを設定し、それらに忠実に沿った架空のCMを10本制作したのです。筆者は昔のCMを見るのが好きでたまにやるのですが、この映像とアイデアにはものすごく興奮したのを覚えています。勿論、それは当然、筆者だけではなかった。リリースから2年が経過した今でも、この映像の完成度の高さと熱量には圧倒されます。またこのアイデアの裏側にvaporwave的なムーヴメントへの目配せがあったのかどうかは正直に言えば微妙ではありますが、先述したパソコン音楽クラブがラフォーレグランバザールのCMに起用された2017年と同じ年にこの映像が出たことを考えると、ただの偶然として片付けるにはあまりにも惜しい。筆者はそう考えています。(……というか、2017年の下半期というのはアイカツアニONにHyperJuice・haraさんやYunomiさんなどのインターネット系アーティストがご出演なさるのが発表された時期でもあり、筆者がそれを承けて当ブログ初めての記事を書こうと決めたのも2017年内でした。やはり今考えても藤井氏の2017年の活動はすさまじいものがあります)

さて、肝心のアルバムの内容ですが、本作ではプロデュースと全曲の編曲をNONA REEVESなどでもプロデューサーを務める冨田謙氏が手掛け(また2曲で作曲も担当)、作詞作曲にはそのNONA REEVESから西寺郷太さん、堂島孝平さん、意外なところではスカートの澤部渡さんなど、まさに実力派と言うべきソングライターたちが集結しています。テーマは"90年代の音楽"ということでジャンル自体はデジロック風であったりシティポップ的であったりと様々なのですが、総じて丁寧に作り込まれており、音質面的にも決して90年代の回顧に終わらない、上質なポップアルバムとなっています。

そして、この中でも筆者が特に推したいのが、8曲目の「カサノバとエンジェル」です。作詞曲を西寺郷太氏が担当したこの楽曲は一点メディカルの目薬「クールサイラス」のCM曲に起用されており、M1のオルガンベースが全編で鳴り響くハウスチューンなのですが、個人的にはYUKI「JOY -Eric Kupper Club Mix-」やSMAP「ダイナマイト (MJ Cole remix)」と並ぶ日本の歌ものディープハウスの名曲だと思っています。もちろん他の楽曲もめちゃくちゃ良いのですが、これは特にイケてますね。というわけで必聴!

 

④VaVa「VVORLD」

今回、第2弾を執筆するにあたって「(前回は割と年代に幅があったため)なるべく新しい作品を紹介する」「(前回はバンドものが多かったため)ヒップホップやダンスミュージックを多めに紹介する」という裏テーマを設定していたのですが、まさにその両方を満たす名盤、あったんです。あのPUNPEEやSIMI LABを擁する国内最重要ヒップホップレーベルの一つであるSummitから今年(2019年)2月にリリースされた、ビートメイカー/ラッパー・VaVaの2ndフルアルバム。それが「VVORLD」(読みは"ワールド")。まさかこれが聴けるとは思いませんでしたよ。筆者は出て即、普通にCDで買っていたのでPrime Musicにあることは完全ノーマークだったのですが、今年この作品、めちゃくちゃ聴きました。

VaVa氏は2012年からビートメイカーとしての活動を開始し、自身の所属するクリエイティブチーム"Creative Drug Store"周辺のラッパー――BIMやin-d、また彼らが結成したユニットTHE OTOGIBANASHI'Sなどにビートを提供していましたが、チームでの共同生活へのストレスから2015年ごろに一旦CDSからは離れ、これをきっかけに自身のラッパーとしての顔を徐々に見せ始めます。2017年7月には1st「low mind boi」(これもPrimeで聴けるナイスなアルバムです)をリリースし、またCDS界隈とも再び繋がりを持つようになったことからBIM氏のソロアルバム「The Beam」の収録曲「Bonita」をプロデュースしたり、前回も紹介したKID FRESINOのアルバム「ài qíng」ではラストの「Retarded」のビートを提供するなど、ビートメイカーとしても「脂の乗った」時期に突入し始めたのです。

本作「VVORLD」はかなり多めの16曲が収録されており、アルバムの新曲は10曲で、残り6曲は前年(2018年)にリリースした3枚のEP「Virtual」「Idiot」、「Universe」(←これだけなぜかPrimeでは聴けない)からの収録です。この3作品はかなりハイペースな連続リリースでしたがどの楽曲も非常にハイクオリティで、オーディエンスの期待もどんどんと高まる中でのアルバムリリースとなったことから氏のクリエイティヴィティの高さが伺えます。実際先述した「Bonita」や「Retarded」もリリースは2018年で(厳密にいえばBonitaのMV公開は2017年内なのですが)、この「low mind boi」以降の約1年の間に大きな心境の変化が訪れたことをVaVa氏はインタビューでも語っています

そして肝心のサウンド面ですが、VaVa氏の音は基本的にはトラップを下敷きにしつつもホーンサンプルなどを効果的に配置することで独特のポップさというか、親しみやすさを感じさせています。自身のラップでもオートチューンを活用し、常に"歌って"いるところにラッパーとしての個性が光るわけですが、そんな彼が同じくオートチューンを駆使するtofubeats氏を客演に招いた「Virtual Luv」の名曲具合は凄まじいことになっています(VaVa氏がビートを作り始めるきっかけの一つはtofubeats氏による映像シリーズ「HARD-OFF BEATS」であり、のちに同シリーズに招かれるというなかなかの良い話も)。また、「つよがりのゆくえ」のように内面を吐露するような等身大な楽曲も増え、やはりそういった面でも親しみやすさというところにつながっているように感じます。

VaVa氏は本作リリース後もin-d「On My Way」Red Bullのキュレートによるマイクリレー楽曲制作企画「RASEN」の第2弾(参加アーティストはDaichi Yamamoto/釈迦坊主/dodo/Tohji ……敬称略、どんな豪華さなんだ)へビートを提供していたり、またそのDaichi Yamamoto氏のアルバム「Andless」へ客演で参加していたりととにかく八面六臂の活躍を続けていらっしゃるのですが……個人的には早く花澤香菜さんのアルバムに参加してほしいですそれはともかく歌ものとしての強度すら感じさせる本作、ヒップホップのファンのみならず幅広く聴かれてほしい名盤です。というわけで必聴!

 

⑤「TREKKIE TRAX THE BEST 2016-2017」

「それ、アリなの?!」と叫んだ皆さん、すみません笑 でもこれ、すごく重要な名盤だと筆者は思っています。2012年に発足し、東京を拠点に数々のイケてる若手アーティストの作品を世に問うてきたレーベル・TREKKIE TRAX。同レーベルが2016年から17年に発表した作品の中から厳選した17曲をコンパイルし、さらにボーナストラックとして収録曲のrmx2曲を追加した形で2018年にリリースされた2枚目のベストアルバムを今回は取り上げてみたいと思います。

創始者のひとりであるCarpainter氏についてはこちらの弊ブログ最初の記事でも取り上げましたが、氏の作品ではグライムMC・Onjuicy氏を迎え制作されたインターネットミュージック界隈のアンセム「PAM!!!」、また2ndアルバム「Returning」からタイトルトラックを収録。また先述したパソコン音楽クラブとも親交の深い京都出身・ヴォーカルカットアップの巨匠in the blue shirt氏、TREKKIEが生んだスターのひとりであるMasayoshi Iimori氏のトラックや、さらにはメジャーデビューも果たしたchelmico三毛猫ホームレスprodによる代表曲「Love is Over」と同曲のTomggg(読みは"とむぐぐ")氏によるrmx、猫の飼い主としても鬼バズるDubscribe氏やアニメ「プリパラ」の公式rmx盤への参加で界隈をざわつかせたblacklolita氏のトラックも収録するなど、いちレーベルのベストという枠をはるかに超えたコンピとしての充実度の高さが伺えます。

聴いてみるとわかりますが、今挙げただけでもグライム・フューチャーベース・トラップ・ヒップホップ・ダブステップなどの非常に多様な音楽性を違和感なく一枚の作品に落とし込んでおり(実際は彼らの内包する音楽性はさらに幅広いわけですが)、このような沢山のアーティストのリリース、またイベントの開催・出演(TREKKIEの創始者4人―CarpainterことTaimei氏、その兄Seimei氏、andrew氏、futatsuki氏はTREKKIE TAX CREWとしてユニットとしてのDJやトラックメイクもこなしています)を通じて、TREKKIEは新しい"東京シーン"の形成に尽力してきました。Carpainter氏を取り上げたインターネットミュージックの記事も、ともすればインターネット発のベースミュージックというシーン自体も、彼らがいなければ全く違ったものになっていたでしょう。筆者はそこがTREKKIE TRAXの凄さなのだと感じています。

Carpainter氏はつい先日(11月13日)3枚目のフルアルバム「Future Legacy」をリリースし、同作は今年2月に発表された「Declare Victory」(こちらはPrimeで聴けます。カッコいい)からの流れを汲むテクノ/レイヴトラックスをパッチパチに詰め込んだ大大大傑作でしたが、こうした近年のレイヴリバイバルな流れも国内においてはTREKKIEや国士無双、monolith slipといったアーティストたちが切り拓いてきた部分が大きいと筆者は認識しています(これも非常にざっくりではありますが)。まずはこのコンピレーション、また各アーティストの音源から、非常に広範にわたるインターネット発のダンスミュージックを履修し始めてみてはいかがでしょうか。というわけで必聴!

 

岡村靖幸「幸福」

さて、Prime Musicで聴ける個人的名盤を取り上げるシリーズ第2弾のこの記事もいよいよ最後の作品の紹介となりました。ラストを飾るのは、日本が誇る天才・岡村靖幸氏の2016年作「幸福」です。

テン年代岡村靖幸氏の活動は非常に旺盛で、二枚のリアレンジアルバム「エチケット」をリリースしたり、アニメ「スペース☆ダンディ」のOPテーマ「ビバナミダ」の書き下ろし・映画「みんな!エスパーだよ!」の主題歌「ラブメッセージ」の書き下ろしとそれぞれの楽曲のシングルリリースをしたり、はたまたBase Ball Bearのミニアルバム「初恋」収録曲「君はノンフィクション」への編曲・プロデュース参加、またそのBase Ball BearからVo/Gt小出祐介を作詞とヴォーカルに招いてのダブルネームでのシングル「愛はおしゃれじゃない」をリリースするなど、リアレンジアルバム・新曲リリース(タイアップも二つ)・プロデュースやコラボ・そしてたくさんのライブやTV出演と多岐にわたっていました。

勿論本作リリース後もdaoko氏とのコラボレーション「ステップアップLOVE」リリースとそれに伴うMステ出演、また花澤香菜さんへの楽曲提供などというオタクの悪い妄想そのものとしか言えない大事件(残念ながら作曲のみで編曲はプロデュースを担当した佐橋佳幸氏が行ったものでしたが、編曲を岡村ちゃんにやらせないなんてどういう思考回路なんだ……????しかし作詞はなんとあの大貫妙子さん)が起こるなど、やはり精力的な活動を展開していますが、このアルバムはそんな氏の精力的なテン年代を一枚のアルバムへと結実させたような、充実した内容になっています。

岡村靖幸といえば、"和製プリンス"の異名を持つことからもわかるような、ファンクネスとポップネスの濃厚な蜜月が想起されます。しかし先述したテン年代のリリース、例えば「ビバナミダ」や「愛はおしゃれじゃない」は基本的に四つ打ちのリズムが強力に聴き手を引っ張っており、それは「新時代思想」など本作のアルバム曲においても同様です。この強力な四つ打ちのリズム構造とそれらに決して負けない鮮烈な上モノ、というスタイルは「ステップアップLOVE」でも登場――というか輪をかけて熾烈なアレンジメントになっており、「今の岡村ちゃんの音」のトレードマーク的であるとすら言えます。

またラストの「ぶーしゃかLOOP」は2011年にオフィシャルサイト上で発表された楽曲のリアレンジ的な立ち位置のヴァージョンで、一応ライブでの編曲に近いもののほぼ別物として生まれ変わっており、この濃厚なアルバムのラストを締めくくるに相応しい四つ打ちナンバーになっています。とにかく最後まで踊らせ切る。それがこのアルバムの凄いところであり、同時にテン年代岡村靖幸氏の凄味でもある。筆者はスペース☆ダンディで「ビバナミダ」を聴くまでは殆ど氏の楽曲を聴いたことがなかったのですが(まあ筆者が本格的に音楽を聴き始めた2010年、彼は塀の中にいたので当然と言えば当然なのですが)、氏の音の一度耳にするとどんどん次が聴きたくなる中毒性のあるサウンドメイキングは時代を超えて音楽ファンを熱狂させ続けています。というわけで色々な音楽ファンにとって"他人事じゃない"本作、必聴!

 

 

というわけで「Prime Musicはこれを聴け!2」、今回は10000字近いボリュームでお届けいたしましたが……どうでしょう。正直今回は年代的に新しめの作品を多めに紹介したこともあって、これから更に来るというアーティストも多く紹介しているため願わくば前回よりもたくさんの方に読んでほしい内容になってます。そのためにいろいろなインタビューを読み返したり、音源聴き返したり、自分にとっても楽しい執筆になりました。そしてとにかく今回(前回もですが)紹介させて頂いたアーティストの皆様へ多大な敬意を表して、この記事の〆とさせていただきます。

またいつもの通り、誤字・脱字・情報ミスやリンクミス、ここの記述が足りてねえんだよバカ!などのご指摘などございましたらTwitter(@o_w_t_n)までどうぞ。最後まで長々とお読み頂きありがとうございました。お疲れ様でした!